「(ヒザを打つ時には)手からちゃんと押せ!」
3月某日、最終調整中の中向永昌を取材するため彼が所属するSTRUGGLE(東京都墨田区)に足を運ぶと、鈴木秀明会長から細かい注意を受けている真っ最中だった。

文・布施鋼治、試合写真・早田寛

ほかにも相手をこかす時の足の使い方など、鈴木会長の指示は多岐に渡っていた。逆に中向の方から確認するかのように質問を投げかける場面も。練習後、中向は意外な事実を打ち明けた。
試合直前でない方が気になったところを質問する機会は多いですね
受ける方との息もピッタリ。ボロボロになったミットを見せながら、鈴木会長は満足そうに口を開いた。
「当たる箇所は一緒なので、この古いミットは二ヶ所も穴が空いてしまった。新しい道具が使いづらかったら、どうしても古いそれを使ってしまうんですよね」
ミドルキックやヒザ蹴りを打つ中向を観察しているうちにはたと気づいたこともある。以前と比べ、蹴りを打つ時のフォームが俄然美しくなっているのだ。そのことは鈴木会長も認めていた。そのことを告げると、中向は笑顔とともにそうですねと頷いた。

中向練習②
「しっくりくるようになってきたのは1年くらい前ですかね。ちょっとずつ全体的に良くなってきたかなと思います。原因? 日々の積み重ねもあるのかと」
中向が初戴冠を成し遂げたのは2013年11月4日。拓郎(はまっこムエタイ)を5R判定で破り、MA日本スーパーフェザー級王座を奪取したのだ。デビューは2005年9月だから、それまでに8年もの歳月を要した。その直後中向はチャンピオンベルトだけで満足することはなく、NEXTを考えた。
「ベルトは上がってきて獲ったというより、なんとか獲れたという感じ。そこからチャンピオンとして、どうベルトを守っていくのか。あるいはどうトップクラスに食い込んでいくのかを考えました。練習時間も限られている中で自分はどうすればいいのか。どうすれば、もっと技術が身につくのか。そういうことを突き詰めていったら、ただガムシャラにやったらダメということに気づいた。なので、最近は身体の使い方について会長によく聞くようにしていますね」
鈴木会長からのアドバイスは以前から指摘されていることだというが、昔と今では捉え方が明らかに違うという。中向はいまは自分の頭で分解しているので、理解度が深まっているという感じですかねと述懐する。
「今までは頭で理解はしていたつもりだったけど、動きが伴わないことが多かった。たとえば右ミドルだったら足先だったり、手の振りを分解してみたらちょっと違う。言われていることはわかるけど・・という感じだったんですよ」

中向①(TOP)
──頭ではわかったつもりでも、身体まではきちんと反応していなかった、と。
「そうですね。(蹴りの)戻りはできるけど、足先はちょっとみたいな感じだった。そういうことを考えなくてもできるようになったというのはあると思います」
中向がさらに自信を深めたのは、昨年12月7日にBOM大桟橋ホール大会のメインイベントで行なわれたシリモンコン・PKエイワスポーツジム戦だった。シリモンコンは駿太や長嶋大樹らを打ち破っている元ラジャダムナンスタジアム認定スーパーバンタム級王者。王座から陥落したとはいえ、いまだ二大メジャースタジアムのランキングに名を連ねる現役バリバリのムエタイ戦士だ。

果たしてシリモンコンとの一戦が決まり、相手の試合映像を見た時、中向はため息をつくしかなかった。

「強いし、うまいし、(互角に渡り合うなんて)無理だろうなと思いましたね」
しかし、勝負はやってみなければわからない。激しいシーソーゲームの末、勝敗は判定までもつれ込んだ。中向のローによるダメージをとるのか。それともシリモンコンの左ミドルやこかしをポイントとして評価するのか。興味の争点はその一点に絞られたが、ジャッジは2-1でシリモンコンの勝利を支持した。悔しかったと前置きしながら、中向は激闘を振り返る。
「ローもヒジもパンチも当たった。シリモンコンのディフェンスも見えた部分がありましたね」

中向の公開練習
中向にとって3月17日のランシットスタジアム決戦はシリモンコン戦以来の試合となる。タイらしく対戦相手は直前になってピーマイ・ガーンプライサニーからソーングランチャイ・ポー・コブカーに変更された。ピーマイの欠場理由は「学校があって休めない」。かつてはジムの方針もあって義務教育にも背を向け、ムエタイ街道まっしぐらというタイプが主流を占めていた。しかし、時は21世紀。最近は引退したあとの第二の人生も踏まえ学業との両立を考えるジムが多くなってきている。とはいえ、昨年7月のKICK REVOLUTION第一弾に出場した時もそうだったが、ピーマイにしろ、ソーングランチャイにしろ、詳細な情報はないに等しい。
そんな状況なので、中向は対戦相手の変更を全く気にしていない。こだわっているのは試合の中身だけだ。
「変な話、パンチやローで倒すというのではなく、ムエタイならではのポイントのとり方、つまり首相撲や蹴りの攻防で勝負してみたい」
30歳を過ぎても成長中。前回以上の自信を胸に、中向は8か月ぶりにランシットのリングに上がる。
「KICK REVOLUTION2015」
3月17日・タイ国ランシットスタジアム
▽ライト級3分5ラウンド
MA日本スーパーフェザー級王者
中向永昌(STRUGGLE)
VS
タイ国ライト級
ソーングランチャイ・ポー・コブカー(タイ)