パンの写真①

初めてのタイで3・17ランシットスタジアム決戦に出場する選手がいる。ヒジがうまいと評判のファーペット・シンマナサック(タイ)と闘うJ-NETスーパーライト級3位の潘隆成(クロスポイント吉祥寺)だ。(文・布施鋼治)

「もう最悪だ」
1月13日、潘隆成(クロスポイント吉祥寺)は気分が晴れぬまま大学まで足を運んだ。大学3年にとっては重要な学期末試験を受けるためだ。前日、J-NETWORK後楽園大会で空位のJ-NETスーパーライト級王座を鈴木真治(藤原スポーツジム)と争って本戦(5R)までは試合を優勢に進めたまでは良かったが、ジャッジは1-0(潘)で延長戦へ。

ここでベテランの鈴木はワンツーや右ローで猛然と反撃を開始し、右ヒジで潘をキャンバスに這わせ逆転TKO(タオル投入)を飾るとともに初戴冠に成功した。

パンの写真②

この際、潘は不自然な体勢で体勢でダウンを喫したため右足を負傷してしまう。そこで足を引きずりながらの登校を余儀なくされた。おまけに左足はローをもらいすぎたおかげで腫れ上がっており、微熱も出ていた。
潘は鈴木のローは食らったことのないほどの重さだったと振り返る

「腫れが引くまでに1週間くらいかかりました」

翌日は学校に行くのが精一杯で、試験勉強などできるはずもなかった。
「おかげで人材開発論の単位を落としてしまいました(苦笑)」
鈴木との王座決定戦を迎えるまでの潘は7戦全勝と無敗の快進撃を続けていた。しかし過去に水落洋祐を倒すなど実績十分の鈴木が相手となると事情は変わってくる。しかも、潘にとってはこの日が初の5回戦だった。
「5R終わった時点でもうスタミナが残っていなかった。やっぱり3Rとは違いますね」
敗因はそれだけではない。オーバーワークも原因のひとつと思っている。潘は治療院にも行ったけど、調整が間に合わなかったと打ち明けた。
「試合当日もフィジカルトレーナーに『試合当日の身体じゃないよ。張りすぎてヤバい』と指摘されました」
しかし、終わってしまえば全てが経験だ。初めてのタイトルマッチの失敗を糧に潘は前を向く。今回の5VS5マッチ出場の声がかかると、迷うことなく頷いた。

「相手が強くてもタイでやりかった」
──なぜ?
「自分が教えてもらっている先生はみなタイ人。最初の人もそうだったし、次は現在のウーさん。この世界ではムエタイが一番強いと思っているので、キックボクサーの憧れの地であるタイで一回やってみたい」
タイでの試合が決まると、藩はタイ特有のポイントのとり方を考えながら練習するようになった。
「技術もそうだけど、向こうではギャンブラーが試合に絡んだりするんですよね? 1~2Rはそんなに差をつけないという話も聞きました」
タイのムエタイの判定は49-48がフォーマットといわれている。日本人の価値観からすればもう少し差が開いていても、向こうでは1ポイント差のジャッジとなる摩訶不思議な世界。潘から見てもまだ納得はできないし、理解することも難しい。
「どこが(勝者から)マイナス1ポイントになるのか全然わからない」

パンの写真③
以前習ったタイ人トレーナーからはこんな話も聞いた。
「相手の蹴りをきれいにカットする。あるいは相手のバランスを崩したりするだけでポイントになるケースもあるんだよ」
ムエタイの一流選手ともなれば相手に蹴り足を掴まれても、ケンケンをする要領で倒れなかったり、相手に飛びついてブレークを待つようなパフォーマンスは朝飯前。そんな話を振ると、潘は首を傾げた。

「考えれば考えるほど頭が痛くなりそう」
──落とした人材開発論の論文より難しそう?
「難しいです(苦笑)」
3月17日、タイ・ランシットスタジアム
▽スーパーライト級3分5ラウンド
潘隆成(クロスポイント吉祥寺)
VS
ファーペット・シンマナサック(タイ)