もっとムエタイ 第1回 麗也

麗也7月6日(現地時間)、タイ・バンコクのランシットスタジアムで行なわれる『KICK REVOLUTION2014~日本-タイ5VS5全面対抗戦」。その先鋒としての出場が予定されている弱冠18歳の日本ランカーがいる。日本ではタイトル挑戦目前といわれている麗也(BeWELL)だ。”究極のベビーフェース”は、どんな闘いを見せてくれるのだろうか。(文・布施鋼治)

「麗也は子供みたいな顔をしているから、相手はなめてくる。でも、なめられるほど力がないわけではないんだよね」
麗也の印象を訊くと、Bewellジムの笠原健治会長はそう語った。筆者は大きく頷くしかなかった。現在18歳ながら、確かに麗也は実年齢より幼く見える。昨年タイで初めて会った時には中学生かと思ったほどだ。単刀直入にその件について訊いてみると、麗也ははみかみながら答えた。
「僕がキックをやっていると言うと、みんな『やっているようには見えないよね』と口を揃えるんですよ」
やっぱり。本人も自覚していたか。ただ、麗也は開き直っていた。

「見かけはこうだけど、実際に強かったら面白いじゃないですか。試合で幼い顔とのギャップを見せられたらいいんじゃないかと思っています」
案の定、麗也は見た目とファイト内容のギャップを楽しませてくれる。5月18日には日本フライ級2位の泰史と激突。見た目は誰の目から見ても泰史の方が強そうに見えたが、麗也は2連続KO勝ちと勢いに乗る年上の上位ランカーを接戦の末に撃破。7月6日のランシットスタジアム決戦へと駒を進めた。
「泰史選手とは以前からずっとやりたいと思っていたんですよ。泰史選手が試合をやる時には見に行ったりもしていました」
人の運命は面白いものだ。テレビで見たK-1の影響で、麗也はキックボクシングに興味を抱いた。そして中2になった直後、自宅近くにあったBewellの門を叩いたわけだが、そこに志朗がいなかったら、ムエタイに傾倒することはなかったのだから。
「最初はK-1だったので、ヒジヒザなしの方が好きだったけど、志朗君の背中を観て育ったのでヒジ・ヒザ・首相撲ありがキックボクシングというか、本当のムエタイだと思えるようになりました。僕はムエタイルールでしか闘ったことがないので、それ以外のルールのことはよくわからない。Krushとかに興味がないわけではないけど」

2歳年上の志朗とは兄弟のようにも見えるが、選手としての憧れも強い。
「お兄ちゃん以上の存在ですね。志朗君も最初はタイに行くのがイヤだったと言っていたけど、それでも繰り返し足を運んでいる。たぶん志朗君はタイで勝つためにはそういう選択をしたんだと思う。そういうところの意識の高さは見習いたい。というよりも見習っているつもりです。ああいう人が身近にいて本当に良かったというか、環境として本当に恵まれている。志朗君がいなかったら、ここまで来ることはなかったでしょう」
タイにはこれまでに5回ほど足を運んだ。いずれも10日から3週間ほどの滞在ながら、現地でムエタイを学び、試合をすることでムエタイに対する意識は大きく変わったという。
「2年半前、初めて行った時にはもう少し自分の実力が通用するかと思っていたけど、ジムにいる同い年くらいの子と比べても差がありました。まず体の強さからして違っていた」
練習場所は、志朗が拠点とする96ピーナンジム。バンコク市内でも最も大きな市場として知られるクロントゥーイ市場の裏手にあるジムだ。周囲はお世辞にも清潔とはいえず、観光客は間違っても足を踏み入れるエリアではない。初めてピーナンジムに行った時、カルチャーショックを受けなかったかと水を向けると、麗也は大きく頷いた。
「もうちょっとマシかなと思ったんですけど、想像していた環境とは全然違っていました(笑)。ホームシックというか、日本に帰りたいと思いましたね」

今回の取材場所は大宮のBewellジム。塵ひとつ落ちていないような清潔な環境はあまりにもピーナンジムとギャップがありすぎるが、タイ滞在を重ねるごとに麗也は気にしないようになっていく。
「練習は普通にできるわけだし。もうそういうものだと割り切っています。タイに滞在中は(ピーナンジムの中の宿舎にある)志朗君の部屋に泊めてもらっています。ホテル? 昔はゲストハウスに寝泊まりしていたけど、孤独だなと思ってジムで寝泊まりさせてもらうように頼みました。ジムのみんながいる方が楽しい。汚いですけど」

麗也bewell  タイでの通算戦績は2勝3敗とひとつ負け越している。今年3月26日には毎週水曜にバンコク有数のショッピングセンターとして知られるマーブンクロンセンター前の広場で入場無料で開催されている『MBKファイトナイト』に出場し、現地の選手と56㎏契約の5回戦で拳を交わした。試合はリングサイドの観客が沸き返るほどのシーソーゲーム。ムエタイのクライマックスともいえる3~4Rで劣勢に追い込まれた麗也は、5Rに残る力を振り絞ってミドルキックを浴びせ続け、会場を大いに盛り上げた。結局、詰め切れず判定負けに終わったが、多くの観客から労いの声をかけられた。

「今までの試合よりは全然ムエタイの闘い方ができたと思います。(セコンドに就いた)志朗君からも『良かった』と言われました。課題? 首相撲の攻防ですね。首相撲って技術自体はそんなにないと思うんですけど、打つ時の体勢とかヒザの打ち方とかをもっと学びたい。あとムエタイで絶対必要なのはスタミナ。疲れたところでも絶対に疲れた表情を見せたらいけない」
キックボクシングとムエタイは似て非なる競技だ。前者はパンチとローによるコンビネーションが多いのとは対照的に、後者はミドルキックや首相撲からのヒザ蹴りが攻防の中心となるケースが多い。
日本とタイを行き来しながらキャリアを積み重ねる麗也はその違いを肌で感じ、試合時のモードだけではなく、練習方法から変えているという。

「タイだったら首相撲やミドルキックのカットを、日本だったらローキックやパンチを多めに練習していますね」
得意技は左ミドルキック。昨年11月、NJKFのランカーである悠斗との一戦では最終回(3R)の一番苦しい時に左ミドルを連打して判定勝ちを収めたことは記憶に新しい。麗也も自分は蹴りの方が得意と首肯した。
「ミドルは一番出しやすい技なので、そういう意味ではタイでやる時の方がいいかもしれないですね。でも、最近はパンチの技術も上がってきているのかなと思いますけど、タイでは首相撲やミドルキックの攻防を重点的に考えたい。日本だと組んでばかりいると面白くないと言われるけど、向こうではその方が盛り上がるんじゃないですかね」
ランシットスタジアムには、一昨年に志朗が出場した時に一緒に足を運んだ記憶がある。
「きれいな会場というイメージがあります。入場ゲートがあったりして、なんかラジャとかとは違いますね。外国人向けにも作ってあるというか、国際的なムードを感じました」
出場メンバーの中では最年少。いま、麗也の胸は期待と不安が入り交じっている。

 

「ほかの選手はチャンピオンばかりじゃないですか。普段どんな練習をしているのかすごく気になります。そんな対抗戦に自分も出られるというは光栄。自分でもいいのかという気持ちもあるけど、いい試合をする自信はあります」
試合の2週間前にはバンコク入りして、志朗の待つ96ピーナンジムで最終調整に入る予定。現地では志朗お薦めの屋台でカオマンガイ(チキンスープで炊いたご飯に蒸し鶏をのせた東南アジアの定番)に舌鼓を打つことを楽しみにしている。
「以前、タイでお腹を壊した時には、『こんなところには二度と来るもんか』と思ったけど、もう慣れました。体調が急変することもないでしょう」
子供みたいな顔をしているからといって嘗めたらいけない。究極のベビーフェースは、ファイターとしてのスイッチが入ると別人になる。

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